他人事
「助けてくれ!!お願いだ!!…おい、無視しないでくれよ!?」
懇願は風に流され消えて行く。
時間に追われて走る街、人。
人ごみに流されて、それでも男はなお周りの人々に話し掛ける。
だが男の願いは叶えられることなく。
「お願いだよ!!******人犯に追われているんだ!!聞いてくれよ!?」
男はとおりすがったスーツ姿の男に懇願する。
しかし、スーツ姿の男は鬱陶しそうに男を邪険に振り払うだけだった。
「なんで…なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ…!!」
膝から崩れ落ちる。
心底悔しくて、男はコンクリートの床を叩く。
行き場のない怒りと、底知れぬ絶望感。
ふと、背後から足音と声が聞こえた。
「それは私のセリフなんだがね」
「あ?」
男は振り向いて、視線を少し上へと向ける。
その顔は少しだけようやく自分の話を聞いてくれる人物が現れたという喜びに満ちていて。
「あ、あうあ…あん、あん、た…誰?」
男の目の前に立っていたのは黒い特攻服姿の奇妙な格好の若い男だった。
特攻服姿の男は苦虫を噛み潰したかのような表情を露骨に浮かべてただ目の前の男を見下ろしているのだった。
「私を定義するものは何も無いが、人間の世界で言うところの死神という奴です」
「はひ!?」
「ああ、別に死神と言ってもあなたの魂を喰らうとか野蛮な真似はしません。一応、紳士なんで」
特攻服姿の男は興味なさそうに説明する。
「さて、私がここに来た理由ですが。あなたは何故、そんなに助けを求めるのですか?」
「何でって…******人犯に追われているんだよ!!政治家の俺を消そうとしている奴らが居るんだ!!だから…」
「ほほう」
「他人事かよ…!!なあ、あんた死神だろ?助けてくれよ!!」
「却下」
特攻服姿の死神は政治家の男の懇願をバッサリと切り捨てる。
「1、あなたは既に死んでいる。2、あなたは死んだ時の記憶をなくしている。3、あなたはそうして生者に助けを求めている。4、大半の生者は死者の声など聞こえない見えない。5、そうして私がそんな死者の魂を事務的に処理する為に呼ばれて来た。6、よってあなたの願いは叶う叶わない以前に無駄。Do you understand?」
「そんな…ひどい…」
「ひどい?あなたはその口でよくそんな事が言えますね。大震災で家や家族を失った人々の悲鳴や苦しみ、支援や懇願を顔色ひとつ変えずにそう、それこそ他人事のように無視し、それどころか増税で国民の生活を苦しめ、不幸に陥れただろう?違うとは言わせないですよ」
「今更………して…どうしてそんな他人事なんだよ!?あんたは…それでも人間か!?」
「いいえ、違いますよ」
特攻服姿の死神は鎌を振りかぶる。
そして、一言。
「私は、死神です」
END.
05/17 20:03
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