「Navy」

Sift, 笑って。

「君は俺に『何故あまり笑わないのか』と訊いた事があったね」

冬の寒さとは無縁な、暖かい喫茶店の中に男の声が響く。
アンティーク調の椅子に腰掛けて話す男は、一見サラリーマンのような服装をしている。

「その時俺はこう答えた筈だ。 『死神に笑顔は必要ないからだ』と」

サラリーマン風の男の名は、Sift(シフト)。
彼の正体は、死神。

「…という事は師匠、他にも何か理由があるんですか?」

今まで黙っていた男が口を開く。
Sift(シフト)の正面に座っている男は、いつも黒い特攻服という奇妙な格好をしている。
特攻服の男、Navy(ネイビー)は、まだ温かい紅茶を一口飲んだ。

「死神に笑顔は必要ない。 それは動かしがたい事実なんだけど…」

「師匠、ひょっとして。 笑えない…とか?」

「そう。 俺はね、笑えないんだ」

「意外ですね。 でも納得」

「少しは笑えるんだが…心の底から笑えた事はないんだよ」

Sift(シフト)は手の中のコーヒーカップに視線を落とした。
コーヒーの黒がゆらゆら揺れる。

「今ではもう…笑い方さえ分からない。 だからNevy(ネイビー)、ひとつ訊いてもいいかい?」

「私の分かる範囲なら答えますが」

「俺は…俺は上手く笑えてるかい?」

冷たい目が、Navy(ネイビー)を見つめている。

「えぇ。 師匠、上手く笑えてますよ」

傍から見て、それは笑っていなかったとしても。
私にはとても上手く笑っているように見えるから―――

END.


12/12 14:55

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幸運な男

僕の人生は不幸の連続だった…
だけど。

「僕は運がよかったんです」

笑顔で話す死んだ男と、黒い特攻服姿の奇妙な死神。
周りには、慌ただしく駆け回る警察と消防、そして集う野次馬達。
その交通事故は、珍しく大規模で、地獄絵図のようだった。
しかし―――
怪我人が多い割には、皆ホッとした安堵の表情を浮かべていた。

「何故、運がよかったんですか?」

黒い特攻服の死神、Navy(ネイビー)は死んだ男に問うた。
男はニコニコと嬉しそうに微笑んでいる。

「自殺する勇気がなかったんだ。 だから丁度よかったんです、僕だけが死ねて」

街頭のニュースが交通事故の様子を放送している。
号外新聞にも大きく交通事故の事を取り上げている。
新聞には、男の顔が大きく載っていた。
玉突き連続事故。
怪我人は多数出たものの、死者はほとんどいなかった。
そう、一人の男を除いて。

「誰もが僕を運の悪い男だと思ったはずです。 でも、僕にとっては幸運以外の何者でもなかったんだ…」

跡形もないほど変形しきった車と、車外に放り出されて死んだ男。
事故の処理をしながら年配の警察官は呟いた。

「不運だな。 不運以外の何者でもない…」

若い警察官は、表情を変えず、「そうっすね」と返事をした。

END.


10/20 15:18

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0-GAME(Love-game)

テニスコートにボールが叩きつけられた。
瞬間、時が止まった気がした。

「僕の勝ちだね」

相手は勝ち誇った顔で俺を見つめた。

「ああ」

流れる汗を拭う事もせず、俺は返事をする。

「約束だ。 もう二度と彼女に会わないでくれ」

「分かった…彼女の事は…諦めるよ」

テニスラケットを鞄に仕舞い、鞄からタオルを取り出して汗を拭いた。
本当は大声を出して泣きたい気分だったけど、奴の目の前で泣くなんて格好の悪い事はしたくなかった。

「じゃあね。 さようなら」

俺は吐き捨てるように言うと、駅前まで走った。
流れる涙はそのままで。
切符売り場で片道切符を購入し、俺は旅立ったんだ…


死者は死神にそう語った。
死神は黙って死者の話を聞いていた。


09/30 11:34

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Rainbow. 2

「虹が出てるわね」
車を運転しながら彼女は言う。
助手席の男は呟いた。

「虹のふもとには宝物が埋まっているって昔、祖父から聞いたよ」

「あら、じゃあ今から2人で探しに行く?」

「いや、行く必要はないさ」

「どうして?」

「宝物は既に俺の隣で笑っているからさ」

男は照れながら言うと、ふいと窓の外の景色を眺めた。

END.


09/11 16:26

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とんちじゃなくて

「ねぇ、死神さん。 宇宙人っていると思う?」

死んだ直後の人間にしては、いささか奇妙な質問であった。

「さてね。 私は死神であって、学者じゃない。 肯定も否定もするつもりはないね」

死神、Navy(ネイビー)は肩をすくめる。

「随分面白みのない死神さんだね」

「よく言われるよ。 話し相手にはおすすめ出来ない」

お互いに顔を見つめて乾いた笑い声を響かせる。

「まぁ、折角だから話だけでも聞いてよ」

「ふむ、そうさせてもらうよ」

「宇宙人なんて存在しない・・・100%いないと言い切ることは出来ないって知ってるかい?」

「知らないね。 少なくとも、私の頭の中の百科事典には載ってない」

「僅か1%の確率で宇宙人は存在しているんだよ」

「へぇ、そりゃ初耳だ」

わざとらしく驚いた反応を示してみる。
死者は満足そうに頷いた。

「確かに、地球の人間から見ると、宇宙人の存在は皆無だろうね。 でも、他の星の宇宙人から見ると、地球人もまた宇宙人としてカウントされるんだよ」

「ははっ、まるで一休さんのとんちだね」

「だろう? 矛盾しているよね」

「君は、とんち話が好きなのかい?」

「うん、子供の頃からそういったとんち話に興味を持ってね。 学生時代はひねくれた子供だと散々陰口叩かれたよ」

「何処か私と似た部分があるね」

Navy(ネイビー)は微笑んだ。

「そんなとんち話好きな君に、ひとつ面白い話を聞かせてあげよう」

「へぇ、死神さんがかい?」

「とんち話で有名な一休さんは知っているね?」

「当然だろう」

「一休さんは80歳以上生きたのですが、最後に残した言葉は一体なんだったと思うね?」

「とんちかい?」

「それはご想像にお任せするよ」

「う〜ん・・・・・・駄目だ、降参」

「じゃあ、待望の解答をば。 『まだ死にたくない』と言ったそうだよ」

「矛盾しているね」

「矛盾しているだろう? その時代で80歳以上というのは異常な位に長生きなのだそうだよ」

「死神さん、一体何が言いたいんだい?」

「まぁ、そんな一休さんでも未練を残してるから、君も何かしら未練を残してると思ったまでさ」

「短絡的だね。 未練なんて無いよ」

「しかし、100%未練なんて無いとは言い切れないだろう?」

「・・・それもそうだね」

「さて、どうするね?」

死神は笑った。

END.


07/10 18:34

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同姓同名

*この物語はフィクションです。

「珍しい事もあるもんだね」

死神、Navy(ネイビー)は目を見開き驚いた。

「同姓同名……か」

鬼籍(死者の名簿)と死者の2人を眺めながら呟く。

「えぇ、初対面の時も驚きました」

死者の女性は微笑した。

「まさか、同姓同名とは思いませんでした」

死者の男性は苦笑する。

「しかし、何故君達は死んだのだ? 今流行りの硫化水素心中か?」

Navy(ネイビー)は少しの皮肉を混ぜて2人に尋ねた。

「「まさか。 そんな馬鹿な真似はしませんよ」」

2人は声を揃えて全否定する。

「だろうね」

Navy(ネイビー)は肩を竦めた。

「「ただの交通事故です。 後ろからトラックが突っ込んで来たんですよ」」

Navy(ネイビー)に向かって2人は言う。

「それはそれは……」

Navy(ネイビー)はご愁傷様です、と呟いた。
2人は声を揃えてNavy(ネイビー)に言った。

「「仕方ないです。 運が悪かったんですよ」」

2人の思考回路は何処か似ていた。

END.


06/09 09:35

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極悪非道 6

*この物語はフィクションです。

「そうか、それなら安心だ」

Navy(ネイビー)はニッコリ笑って懐から小刀を取り出すと、京極の左腕を斬りつけた。
燃えるような痛みが走る。
京極は目を見開いて呻いた。
Navy(ネイビー)は、構わず京極の身体を傷つけていく。
鮮血が飛び散り、京極は悲鳴を上げる。
その顔は恐怖で醜く歪み、大量の汗と血が流れ落ちて行く。
我に返った京極は、Navy(ネイビー)に問い掛ける。

「ち、ちょっと待て。 い、一体ここは何処なんだ!?」

裏返った声で、京極はNavy(ネイビー)向かって叫ぶ。

「ふむ、此処が何処かは厳密には定められていないが、人間の言葉を借りて言うなら、此処は彼の岸と此の岸の狭間と呼ぶね。 いわゆるあの世付近」

ゆったりとした口調で質問に答えるのは、特攻服姿の死神、Navy(ネイビー)。

「そもそも、お前は一体何なんだ? お前は一体誰なんだ!?」

恐怖で震える男は、Navy(ネイビー)に再びいくつかの質問を投げかける。

「質問はひとつずつにしてくれないか。 私の名前はNavy(ネイビー)。 私を定義するものは何もないが、しいて言うなら死神と皆は呼ぶね」

「お、俺を殺す気なのか?」

「無粋な質問だね。 死後の世界に生きるも死ぬも無いよ。 さっき言っただろう? 君は天国にも地獄にも行けない……と」

「一体何をする気なんだ?!」

「なぁに、簡単な話ですよ。 私は指を切るなんて恐ろしい事は致しません。 ただ貴方の手足の爪を全て引き剥がし、その顔を拝見させて戴くだけですよ」

ぞっとするような笑顔を浮かべると、Navy(ネイビー)はギュッと小刀を握り直した。

「お願いだ! やめてくれ!」

京極は懇願するが、Navy(ネイビー)は首を横に振った。
鮮血が飛び散り、京極は悲鳴を上げた。
彼がこの後どうなったかは誰も知らない。

END.


05/12 08:29

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極悪非道 5

*この物語はフィクションです。

「馬鹿な……」

「しかしこれが真実。 思い出したかい?」

「俺は裏切られたのか?」

「残念ながらそういう事になるね」

Navy(ネイビー)は肩をすくめた。

「京極君とやら……君は生前、何人もの人間を殺害しているようだね?」

「……ああ」

「君は天国にも地獄にも行けない。 覚悟は出来ているかい?」

「ああ」

京極はNavy(ネイビー)を睨みつけたまま、呆然とした顔で返事をする。
瞳は濁ったまま、虚空を見つめていた。


05/12 08:27

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極悪非道 4

*この物語はフィクションです。

シグルレッドに囲まれる。
遠くまで鳴り響くサイレンと怒号。
散らばるクスリ。
京極は騙されたと思った。

「話が全く違うじゃねぇか! 俺らは麻薬には決して手を出さないんじゃなかったのかよ?」

「今どきそういう事ではやっていけないんだよ」

「何?!」

「悪いが……君には罪を被ってもらうよ」

銃声。
京極はなす術も無く、地面に倒れ込んだ。
生暖かい血液が流れて、床に染みて行くのが見えた。
京極が見た最期の景色は、大勢の警察官に囲まれている自分の姿だった。


05/12 08:23

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極悪非道 3

*この物語はフィクションです。

Navy(ネイビー)は、京極という名前のヤクザを静かに見つめる。

「君は今の状況をよく理解していないようだね?」

死神、Navy(ネイビー)は露骨に顔をしかめると、ゆっくりした口調で言う。

「京極君とやら……君は既に死んでいるのだよ」

「んだと?」

京極はNavy(ネイビー)の顔を睨みつけた。

「信じないのも無理はない。 いきなり赤の他人にお前は死んだと宣告されれば、誰だって疑うだろうね。 しかし残念ながら、これは現実。 君は覚えてないようなので、思い出させてあげるとしよう」

「おいふざけるな!」

「ふざけてなんかいないね。 君は忘れているだけさ」

死神、Navy(ネイビー)は微笑する。
しかし、目は全く笑っていなかった。


05/12 08:22

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